遺産と相続財産の区別


 遺産分割協議書を作成するには、お亡くなりになった方(被相続人)の「遺産」の分割を相続人の全員で協議して、書面を作成します。

民法第906条(遺産の分割の基準)

 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

民法第909条(遺産の分割の効力)

 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089&keyword=%E6%B0%91%E6%B3%95

明治二十九年法律第八十九号
民法

民法の条文には、「相続財産」という用語もでてきます。 あれ?「遺産」とどう違う?

民法は、「遺産」「相続財産」の用語をどのように区別して規定しているのだろうかと思い、少し条文を調べてみました。

例えば、「相続財産」の文言になっている条文は、

民法第160条(相続財産に関する時効の完成猶予)

 相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

民法第898条(共同相続の効力)

 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

民法第903条(特別受益者の相続分)

 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

『行政書士のための遺言・相続 実務家養成講座

(新訂第3版) 竹内 豊 著』

 

この本の中で書かれていたことを要約しますと、

「遺産という表現は、遺産分割の場合に用いていて、

この場合の遺産は、相続財産と少し意味が違います。

遺産分割は、被相続人から承継した財産を共同相続人の間で

分配する手続きであるから、経済的価値を有しない権利は

遺産分割の対象とはならず、遺産ではないということになります。

 また、債務は法定相続分ないし指定相続分にしたがって共同相続人間

に分割されるものであるから、遺産分割の対象とはなりません。

 すなわち、遺産分割の対象である遺産とは経済的価値のある積極財産だけであり、

相続財産と遺産分割の対象となる遺産とは、その範囲が違う。」

と『口述相続法』高木多喜男・成文堂』の引用をして書かれています。

 

 つまり、「遺産」とは、遺産分割の際に使われる用語であり、被相続人の財産のうちの積極財産のこと

「相続財産」とは、被相続人から相続人側へと承継される(一身専属権を除く。)すべての資産や負債、権利義務の総称であり、共同相続人間の共有財産のこと

ではないか?と思われます。

法律用語の使い分けには、注意しないといけないですね。

あと、最高裁判所等の判例も記載しておきます。

・可 分 債 務

 法律上当然に分割され、各共同相続人は相続分に応じて責任を負えばよい(大決昭5.12.4)。

・金 銭

 当然に分割されることなく共有とされ、相続人は、遺産分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払いを求めることはできない(最判平4.4.10)。

・普通預金債権等

 共同相続された普通預金債権及び通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる(最大決平28.12.19)。